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”食”を通して西ノ島を活性化。島の温かさに触れた3年間と、これから。

『町民の皆さんに愛されるお土産品を作りたい。』
初めての商品開発で感じた楽しさや苦労とは?

「Humans of Nishinoshima」
島根県、隠岐諸島の小さな島「西ノ島」で暮らす人のインタビュー記事。
島の人ってどんな暮らしをしているの?どんな仕事をしているの?
そんな島暮らしの日常をお伝えしています。

今回お話を伺ったのは、※地域活性化起業人として株式会社ぐるなび(以下「ぐるなび」)から西ノ島に派遣されている藤田寛子さん。
公私ともに島の方と深くかかわった3年間について伺いました。


ようやく帰れた地元、島根。

島根県安来やすぎ市出身で、大学まで島根県で過ごしていました。
新卒で広島県の運送業者に就職したんですけど、毎日同じ仕事をこなすばかりで。
この先何年も同じ仕事するのかなって思ったら違う仕事をしてみたくなりました。

学生の頃、飲食店のオープニングスタッフとしてアルバイトをしていたとき、お店をゼロから作り上げていくのがすごく楽しくて。
飲食店のサポートをする仕事ができないかなって探して、同じ広島県で中途募集があったぐるなびに転職しました。

藤田寛子さん(島根県安来市出身)

最初は飲食店をまわって、ぐるなびのサイトに掲載させてもらうための営業をしていました。
でも、3年くらい働いた頃、ふと地元に帰りたいなって思ったんです。
仕事ばかりで職場以外の人と関わりがないし、友達を作る余裕もなくて。
都会だからこそ人との距離が遠いなって感じたりして。

地元で仕事をしたいというのは会社に伝えていたけど、部署異動もなかなかタイミングがない。
もう会社を辞めて帰ろうかなって思ってた頃に、地域活性化起業人として西ノ島に派遣される仕事があると社内公募がありました。

西ノ島は地元じゃないけど、同じ島根県。
島根のためになる仕事があるなら挑戦してみようと思って応募しました。

※地域活性化起業人制度とは
三大都市圏に所在する企業と地方圏の地方自治体が、協定書に基づき、社員を地方自治体に一定期間(6か月から3年)派遣し、地方自治体が取組む地域課題に対し、社員の専門的なノウハウや知見を活かしながら即戦力人材として業務に従事することで、地域活性化を図る取組。

総務省HPより

模索した半年間。

西ノ島での仕事は具体的に決まっていなくて、「西ノ島の商品を流通させるためのお手伝いをする」という目的で派遣されました。

派遣されてから半年間くらいはとにかく挨拶まわり。
島の色んな事業者さんをまわって、困りごとはないか、できることはないかをヒアリングしていました。

でも、実際に話を聞くと、そもそも流通させるような商品がなかったり、何か新しいことをするには人が足りなかったり。
ある事業者さんから「自分たちが1番わかってるのに、いきなり外から来た人に何か言われても困る」って怒鳴られたり。

西ノ島で私にできることあるのかな?って思ったときもありました。

色々と模索しながらも島に来て半年が経った頃、関東圏から3人のシェフを呼んでシェフツアーを企画しました。
プロの目線から西ノ島の新たな魅力を見つけてもらえたらいいなって思って。
一般的に良いと言われるものだけじゃなくて、実は隠れた良いところがあるんじゃないかと思ったんです。

ツアーでは、西ノ島町食生活改善推進協議会の皆さんと一緒に郷土料理について知ってもらう機会をつくったり、西ノ島のご当地グルメになるようなレシピを考えてもらいました。

郷土料理のなめみそについて学んでる様子

考案してもらったレシピは、郷土料理のなめみそを使ったプリン、シュウマイ、ライスコロッケ、サザエの肝を使ったフィナンシェです。

昨年、島内のイベントで提供して、実際に町民のみなさんに食べていただきました。

昨年の島内イベントの様子

本当ならこれらのレシピを島内の飲食店に提供して、お店のメニューとして出してもらいたかったんだけど、なかなかうまくいかなくて。
フィナンシェはお土産品として来年度から販売できるように、現在商品開発を進めているところです。

初めての商品開発を通して思ったこと。

私自身、商品開発の知識は全くありませんでした。
「既にあるものを販売促進していく」というのが会社の得意分野としているところ。
ないものを作るのは初めてのことだらけです。

なにより難しかったのは、島の事業者さんが自走できる環境づくり。

私がいくらやりたいと思っていても、商品開発は形にしてくれる事業者さんがいて初めて成り立つものです。
現在商品化しているフィナンシェも、はじめは事業者さんと足並みそろえて進めていくのに苦労しました。

試作したフィナンシェ

でも、試作したり、パッケージを考えたり、一緒に事業を進めていく中で、控えめだった事業者さんが自分たちからアイディアを出してくださるようになりました。

自分たちで商品にするんだっていう雰囲気になっているのを感じてすごく嬉しいし、完成に近づいている実感がより湧いてくるというか。
本当にやってよかったなと思います。

お土産品なので観光客に手に取ってもらうことはもちろんだけど、やっぱり町民の皆さんに愛されるお菓子になってほしい。
町民の皆さんにどんな反応をしてもらえるのか、今1番ドキドキしています。

島での暮らし。

島に来て1番変わったことは、人付き合いだと思います。

他の地域に派遣されている地域活性化起業人の方から、「よそ者を受け入れない田舎感があって苦労している」という話を聞いたことがあり、私も最初はすごく不安で、どんな扱いをされるんだろうって思っていました。

でも、本当に島の方が温かくて。

1人で飲食店に行っても、たまたまカウンターに座っていた人と仲良くなったり、通っていくうちに常連さんと仲良くなったり。
「私、町民だっけ?」って思ってしまうくらいの距離感で接してもらってます。

昨年、西ノ島で活動していた大人の島留学生の子たちとも仲良くなって、みんなでよく飲みにいったり遊んだりしていました。
ほとんどの子が今年の3月に離島したけど、夏にみんなで集まって旅行に行けたのがすごく嬉しくて。
島には仕事で来ているから、正直旅行に一緒に行くほど仲のいい友達ができるとは思っていませんでした。

島留学のみんなと高知県へ

地元の安来市との2拠点生活をしているので、ずっと島にいるわけではありません。
でも島にいるときは、毎日何かしらの予定があります(笑)

飲みに行ったり、スポーツをしに行ったり。

広島にいたときは営業だったので毎日1万歩くらい歩いてたけど、こっちでは車生活だから全然歩かなくて。
その分、スポーツする時間と余裕ができました。

任期が終わっても島にいたい。

地域活性化起業人の任期は3年なので、今年が最後の年。
でも西ノ島が本当に好きだなって思うから、島に残れる方法はないか模索中です。

もし島に残れたら、今やっていることを最後までやり遂げたいなと思っています。

実はフィナンシェのほかに干物の商品開発にも挑戦していて。
西ノ島は海の町だから、常温で販売できる海産物のお土産があったらいいねという話があり始めました。
これは現在試作中で、どうやって製造・販売していくのか、今はまだ決まってません。
でもレシピまではなんとか完成させて、島の事業者さんに販売していただきたいなと試行錯誤中です。

干物試作実験中

あとは、可能ならば島の飲食店問題を解決したいなって思っています。
魚が食べられる飲食店が少なかったり、臨時休業のお店が多かったり、結構課題はあると思っていて。

シェフツアーをしたときに、夏場だけでよかったら期間限定で出店したいなって言ってくださったシェフがいました。
最近は出張料理人みたいな人も多いから、シェアキッチンのようなものがあったらいいかもしれないなと思っています。

島内の人に出店してもらえれば交流の場になるだろうし、島外の人が出店してみて、そのまま西ノ島でお店を構えてくれるかもしれないし。
色んな人のきっかけになるようなコミュニティスペースがあったらいいなって。

でも、やっぱり島に残りたいなって思っているのは、島の方たちとの繋がりがあるからです。

町民の方のご自宅に招待していただいてBBQ

景色がいいとか、魚が美味しいとか、西ノ島の魅力はたくさんあるけど、地元の方との交流が1番の魅力かなと。

観光で来ると観光地巡りで終わってしまうかもしれないけど、住むことで島の方と深くかかわれる。

そんな西ノ島で、もう少し島のために頑張りたいなと思っています。