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旅行で訪れた島に惚れ、移住。牛飼いとしてスローライフを楽しむ

「Humans of Nishinoshima」
島に住んでいる人って何してるの?島にはどんな仕事があるの?
このマガジンでは西ノ島で暮らす人にインタビューし、
イメージしづらい離島での暮らしについてお届けしています。

聞き手・文 吉谷優花

お話しした方:西川秀樹(にしかわひでき)さん 徳島県出身
2018年にIターン / 小学校教諭から牛飼いに転身/トライアスロンもする

ーー西川さん、最近の島生活はいかがですか。
スローライフ、最高ですよ。朝牛に餌をやって、夕方も牛を見に行きます。間の時間は、プールに行ったり、図書館で本を借りたり、映画をダウンロードしたり、プランターで野菜を育てたり、最近は夏に向けてサップボートを購入しました。使いたかったら自由に使ってくださいね(笑)。

サップボードと牛舎

放牧の牛飼いになりたかった


ーー4年前に西ノ島に移住されたと聞きましたが、それまでは徳島で何をされていたのですか。
56歳まで小学校や特別支援学校で教諭をしていました。大人数のクラスを見るよりも、少人数や一対一で向き合うのが好きでしたね。子どもたちとゆっくり時間をかけて向き合っていると、向こうも僕に歩み寄ってきてくれるんですよ。結局結婚式までその子は呼んでくれて、嬉しかったですね。牛飼いの仕事も牛とゆっくり向き合えるので、僕に向いていると思います。

ーー徳島を離れて、なぜ牛飼いを目指そうと思ったのですか。
夫婦で西ノ島に旅行で来た際に、牛が可愛いと思ったからです(笑)。
西ノ島の観光名所は一通り回ったのですが、鬼舞に行った時に牛が沢山いて、道路を塞いでいて全く通れなかったんですよ。今ではもう普通の光景ですが、当時はそれが一番面白くて(笑)。それをみて牛飼いになりたいと思いました、直感です。教員って定年になると、次の仕事って大体、児童館とか、公民館とか、同じような仕事になるんですよ。自分の数年後も目に見えていたので、どうせなら全く違う業種にチャレンジするのもいいんじゃないかなと思いました。

牛が道にいるのも、島の日常。

ーー牛飼いになる為には、隠岐以外の場所もあると思いますが、他の場所は考えませんでしたか。
放牧の牛飼いにこだわりたかったので、隠岐がいいと思いました。牛舎の中に閉じ込められているのではなく、大自然の中でのびのび育っている牛を見て、放牧しか考えませんでした。実際来てみて思うのは、隠岐の環境ってとても恵まれてると思います。こんな広大な自然に溢れた土地を使わせてもらっているし、道に牛の糞があってもみなさん怒らないんですよ(笑)。本当、心が広いですよね。町全体が協力してくれている感覚です。

西川さんが働いている、町が運営している牛舎。

ーー牛飼いさんのやりがいって、どんな時に感じますか。
去年の3月に、育てていた牛が初めて3頭売れました。やりがいというか、心がほっとしましたね、大事に育てていた子をやっと送り出せたという安心感です。あとは、シンプルですが、四六時中牛と向き合っているので、幸せです。

ブラッシングをしている様子。満面の笑みです。

ーー愛情を注いだ牛が、将来的には自分のもとからいなくなるっていう寂しさは、ありませんか。
それは不思議とありませんね。小学校教諭の時に何百人もの子どもを送り出してきましたから。子どもを次のステージに進級させるような感覚に近いです。いつか自分の手元からいなくなるっていうのは分かっているので、その分、一緒に過ごす時間に、沢山話しかけたり、丁寧にブラッシングをしたりして、たっぷり愛情を注ぎます。この子、ゆきちゃんも来週セリに出すんですよ〜ゆきちゃんは何回ブラッシングしても癖っ毛でごわごわしてて可愛いですよ。

セリについてはこちらの投稿をご覧ください。

生後6ヶ月の女の子、ゆきちゃん

ーー逆に、大変なことはありますか。
先輩牛飼いさんみたいに知識や経験がないので、日々うまく行ってないことだらけですよ(笑)。最近では、牛舎から放牧した牛が、また牛舎に帰ってきてしまいました。そしてまた外に逃げだして行方不明です。GPSをつけていたんですけど電池がなくなったみたいで、昨日も半日探しましたが、見つかりませんでした。山がこれだけ広大なので探し出すのはなかなか難しいですねぇ。

ーー逃げ出すのも、やっぱり理由があるんですか。
牛同士にもルールがあるみたいですよ(笑)。牛舎だったら自由にご飯を食べられるじゃないですか、でも放牧すると食べる順番とかもあるみたいで。しずかちゃん(逃げ出した子)は何でも一番になりたい子なので、一番にご飯を食べたくて戻ってきたんじゃないかなぁ(笑)。

噂話も好きになった島生活


ーー島生活で楽しい事はなんですか。
近所の人とおしゃべりすることです。今では噂話も好きになりました(笑)。自分の話をされるのは嫌ですけどね(笑)。最近は、舟釣りにも連れて行ってもらえるようになりました。今のところ、2回行って、2回とも船酔いです(笑)。四国は船に乗る習慣があるので、慣れてると思ってたんですが、船の上で釣竿に糸を通す作業がどうしても酔いますね。それでもしばらくすると誘って貰えるんですよ、ありがたいですよね。それに、朝早くから船で出て、苦労して釣った魚も、「持って帰り!」とか、「徳島に送ったら?」とか言ってくれて。本当、こっちの人は優しさに溢れてますよね。僕だったら、苦労した魚、簡単にあげたくないですよ(笑)。

釣れた”鯛”や”かさご”
採れたての魚を地域の方が捌いてくれています

ーー島生活でやってみたいことはありますか。

あったら面白いなと思うのは、「プチ牛舎でお試し牛飼い体験」みたいな、そこで2頭くらい牛が飼える、そんな場所があったら面白いなと思います。実際に、若いやってみたいという人もたくさんいるので、気軽にチャレンジ出来る環境があるといいですよね。それに、島に住む人ってタフだから、牛飼いをしながら別の仕事も両立できると思いますよ。

あとは、職場見学で小中学生が牛を見にきますが、どうせなら隠岐牛、食べさせてあげたいなぁと思いますね。美味しい隠岐牛を口にすることで、これが隠岐の牛かぁ!ってなると思うんです。これだけ放牧で牛はいるけど、僕らでも食べる機会はほとんどないですからね。

とりあえず島に来てみるといい


ーー最後に、島に移住を考えてる人に向けて、メッセージをお願いします。
うーん、なんだろう。あまり深く考えずにくることかな。計画通りになることなんてほとんどないですからねぇ。島に人生をかけて全部捨ててきます、というよりは、いつでも帰れる故郷を残しつつ、島にも来てみました!くらいの感覚がいいと思います。思い通りにはならないのでね(笑)。けどならない時こそ、島の人は助けてくれるので、是非飛び込んでみて下さい。牛のこともまだまだ分かってないですが、みなさん助けてくれてますから。

ベテランの牛飼いさんからアドバイスを受けている様子。

筆者のひとこと

インタビューをした一週間後、セリがありました。こちらの写真はその時の写真。西川さんが大切に育てた牛、あゆむくんとの一枚です。島の畜産は一次産業であり、牛も牛飼いさんも無くてはならない存在。この記事を書く上で、命の大切さや食の大切さについて改めて考える機会となりました。

(インタビュー・文 吉谷優花)


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