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【インタビュー】隠岐の名産・岩ガキの種苗生産を支える2人

「Humans of Nishinoshima」
島に住んでいる人って何してるの?島にはどんな仕事があるの?
このマガジンでは西ノ島で暮らす人にインタビューし、
イメージしづらい離島での暮らしについてお届けしています。

(左)幕田匠悟さん:島根県松江市出身
(右)加瀬喜弘さん:千葉県銚子市出身
島根県水産振興協会が管轄する「栽培漁業センター」に勤務
岩ガキの種苗生産を担当

今回インタビューさせていただいたのは栽培漁業センターで働いている幕田さんと加瀬さん。
隠岐地域の名産品である岩ガキの種苗生産をされています。
仕事のことや西ノ島での暮らしについてお話を聞いてきました!

インタビューの前に…そもそも種苗生産とは

岩ガキの種苗生産は
①親貝から卵と精子を取り出し受精させる
②眼点と呼ばれる点が表れたらコレクター(ホタテの貝殻)を水槽に投入し付着させる
③1ヶ月程度陸上(水槽)で育て、その後沖に出し、海中で飼育していく
④漁業者さんに出荷する
というような流れで行われています。詳しくは下記もご覧ください。

お二人のプロフィール

ーー今日はよろしくお願いします。まず自己紹介をお願いします!
幕田さん(以下、幕田):幕田匠悟と言います。出身は松江で、ここで働く前は大阪で3年間、同じような栽培センターで働いていて、そこが任期付きだったので、任期を終えて1年間ペットショップで働いて、このセンターで勤めるようになりました。
この仕事に就いたのは、魚や海関係に行けたらなとは思ってて、大学もそういったことを学ぶ学部で、種苗生産研究室っていう、卵をふ化させて稚魚を育てて、っていう研究室を出て、そこから流れでここに来ました。
入った当初から岩ガキを担当していて、今8年目です。

採卵作業中。オス/メスを確認しています

加瀬さん(以下、加瀬):加瀬喜弘です。生まれは千葉県の銚子です。家が漁師なのもあって仕事は水産系に就きたいと思っていました。大学は東京の都会の方だったんですけど、人がいっぱいいる所は嫌だなと思って、多少田舎の、海沿いで水産に関われる仕事を探していて島根県に。
松江で就職だったんですけど、島に異動もあるよという話があって、西ノ島に来てから4年目になります。

岩ガキの身を取り出しています

幕田:何だかんだでここは同期だからね。自分が元々センター専属での採用で、(加瀬さんが)本部に採用で。人事異動とかでセンターの人手がたりなくなったりしてこっちに来てね。

加瀬:一応二人とも水産系の大学は出てて。幕田さんは現場系で俺は航海士になるような人が行く学校で。水質の測定とか観測とかしたり、船に乗って実習するのが多かったかな。だから「育てる」とかは元々畑違いで。やったことないけど、って思いながら来た(笑)
勉強はしてたけん頭にはすんなり入ったけど、やったことないから面白かった、最初の頃は。案外頭に思い浮かべても、現場に出てやってみると上手くいかないとか。理屈ではこうなんやけど現場では不都合があったりとか。

幕田:それはそう。水産系の現場って割と経験則を重視する人が多くて。こうやった方がいいよって言われても、「実際そうした時はこうだったしなあ」みたいな。それでコケたり上手くいったり色々あるけど。
外部要因が多すぎてね。海の状態・気温・降水量とかで変わるからデータ通りにはいかないっていう。

加瀬:単純に研究室で人工海水を使って飼育しましょうっていうのとは全然違うんでね。

幕田:脱線しつつ…こんな感じで大丈夫ですか?

ーー大丈夫です!!ありがとうございます。では、お仕事の年間の流れをお伺いしてもいいですか?

年間の流れ

幕田:生産期間としては5月のGW明けくらいに卵を採り始めて、陸上で1ヶ月、それを海に出して1ヶ月くらい育てて業者さんに渡してっていうので1サイクル。それを年間で5~6回繰り返して11月くらいには必要数を達成して、そこで生産自体は終了。あとは業者さんへの出荷があるんでその選別作業とか、片付けや次の時期のための準備とかをしていくような。
11月に生産が終わったら、翌年の準備としてホタテの連を全部作っていく。(岩ガキを付着させるため、ホタテの貝殻に穴を開けて紐を通して繋げます)

岩ガキを付着させるためのホタテ貝たち

それをやりつつ、年度が変わってすぐくらいに餌の種(プランクトン)を買ってそれを岩ガキ生産までに培養します。そういう準備をして生産に入るので、1年中岩ガキの作業をしています。合間で魚の出荷があればそっちを手伝ったりもしてるし、その辺りは持ちつ持たれつです。(センターではマダイ・ヒラメの栽培もしています)

餌のプランクトン

ーー5~11月が生産時期で、それ以外は翌シーズンの準備という感じなんですね。
幕田:大体そんな感じですね。ホタテ殻も1回の生産で6万枚とか入れて、それを5回とかだから30万枚くらい使います。ドリルで穴を開けて、洗って乾かして繋ぐ係の人に渡して。繋ぐための紐も自分たちで切っているし、細々した作業もやりつつという感じです。

1日の流れ

ーー大変なんですね…!次は1日の流れをお伺いしたいです。忙しい時期はどういったスケジュールなのでしょうか?
加瀬:陸上で生産している時は、朝一で水の入れ替えのために海水を入れて、餌を作ってます。水の入れ替えに大体2時間くらい掛かるんですけど、40水槽いっぺんには出来ないので20水槽ずつくらいに分けてて。そうすると水を替えるので4時間くらい。それを13時くらいまでに終えて、順次餌をやっていきます。昼以降は餌づくりの続きとか、3時間おきとかで餌やりもやってます。
今(6月上旬)は1サイクル目だから陸上の管理のみだけど、これにプラスで次回以降はその前のサイクルの選別作業とかも入ってくるんで。
今は2人で陸上の水槽を構っているけど、忙しい時は1人が陸上で1人がパートさんたちと選別作業とかをしてって感じです。

幕田:たまにプラスして塩水浴だったり。海に出すとヒラムシ(岩ガキを食べちゃう奴)がつくので、2週間に1回程度、海に吊っている岩ガキを取り出して塩水につけてっていうのもやったりしてる。

加瀬:それを陸上での生産をやってる間にやらなくちゃいけないし、選別や出荷も入ってくるし。業者さんと日時計画してこの日に取りに来てください/こっちから送りますっていうやりとりをして。

幕田:西ノ島の業者さんは取りに来てくださって、海士町や知夫には自分たちでトラックに積んで持っていって、島根町と西郷には船で送って現地の担当の方に頼んで配ってもらってます。全業者さん合わせて年間10万枚くらい注文を頂いてる感じですね。
1回に6万枚作れるとはいえ、そこから出荷できるのがなんぼ獲れるかが分からないんで…上手くいけば9割くらい、大失敗すると3割とか。

ーー3割しか…?!
幕田:そういう時は泣きそう。

ーーそれは泣きたくなりますね…そういう上手くいかない時期はどのくらいの頻度であるんですか?
幕田:毎年1回はどこかのサイクルでやばいっていうのはある。うちの設備は水を冷やす機能がなくて、夏のものすごく暑い時期だと水温が28度とかになるんだけど、それを卵に使うとガクッと死んじゃったり貝に付かなかったりする。

加瀬:何だかんだ俺らが担当してからは何かあるよね、初年度は注文数に足りなかったし。

幕田:自分が担当になって1年目は足りなかった。元々3年間くらいは先輩についてたんだけどその方が退職されて。担当し始めたら全然上手くいかなくて。業者さんに謝りつつ…。

加瀬:最初は上手くいってたんだよね、沖に吊ったら食害でほぼだめになって。ひどい時は8割食われてた。
2年目以降は要望数は達成できてるけどね、やっぱり毎年夏場の生産が上手くいかなかったり食害があったりはしますね。

仕事の面白さ

ーー本当に大変なお仕事ですが…仕事の面白いと感じる部分を教えてください!
幕田:やっぱり上手くいったら面白いかな。例えば今年の1発目とか幼生の付着がすごく良いんで。ああいうのをみるとよっしゃ!という風には思ったりしますね。

加瀬:生産が上手くいったらもちろん面白いし、あとは自分の予想通りにいったこと/いかなかったことが目に見えてくるのが面白い。人によって「浅い所で飼った方が成長がいい」「深い所の方がいい」など意見が様々あるんだけど、時期によっても変わってくるし、色々と試して「今年は深い所の方が成長が良かった」とかあって。何でだろうと考えた時に、よく見たら表層の方に餌があまりなかったのが分かったりとか。だから理屈が分かってくるのが面白いって感じで。業者さんの方が先輩なので、小技もいっぱい知ってるんですよ、「こういう飼い方が上手くいく」とか。そういうのが何でだろうって考えるのが面白いですね。

ーー種苗生産…奥が深いですね!
加瀬:さらっとやってる風に見えると思うけどね、力仕事が多いなって。
一応色々と考えることはある。

幕田:健苗育成っていうのが第一で。それを目指しつつ、上手くいく方法を日々探しつつというのがこのセンターでやってることで。

ーーそうそう、私は何回か仕事中の現場を見学させていただいて、作業中お二人の息がぴったりだなと思って見ていたんですけども。
幕田:……慣れ?それぞれ今何やってるかを把握してるから、それやってるなら俺はこっちやろうくらいの考え方で。

加瀬:そうそう、量が多いけんね。ひとりで完結した方が自分のペースとかではできるけど、効率重視で。

幕田:俺と加瀬君でやり方が違うところもあるとは思うんだけど、型にはめすぎてもやりにくいし。互いにやり方があるんだからっていうくらいの感覚で、任せるところは任せた!っていう感じでやってたら上手くいくんじゃないかな。

加瀬:マニュアル通りにいかないことの方が多いからね。今日はこうした方がいいんじゃないかとかは二人で考えながらやってます。

幕田:特に意識していることはないかな(笑)丸々4年岩ガキ一緒に作ってるし。たぶん加瀬君ならああやるやろくらいの感覚で動いてる。

加瀬:他の魚とかの生産と違ってね、ヒラメとかマダイは毎年1回だけど。

幕田:岩ガキは採卵して大きくして海に出してってのを年に5回くらいやるから。同じことを繰り返すからね。

加瀬:10年勤めた人でも、魚なら10回しか生産してないけど、岩ガキなら50回生産してるからね。5倍分は経験値があるっていう。そんだけやればね(笑)

西ノ島の好きなところ・好きな食べ物

ーーありがとうございます!話は変わるんですが、西ノ島の好きなところと好きな食べ物をお伺いしたいです。
幕田:人の数がちょうどいいなっていうのと、自然が多いところかな。今まで仕事の関係で海の近くにずっと住んでて、海がないところだと落ち着かないまであるので、海が見えるところは気に入ってます。
好きな食べ物は西ノ島でとれるものでいうとサザエが好き。

加瀬:俺もまあ自然だよなあ、緑が多いよね。あと、釣りを始めたのは東京でやったんやけど、水が汚いから釣っても食えないんですよ。で、島に来たら簡単に釣れる美味いしここは天国か!って。

幕田:たまにドウタリ(イカ)も獲れるしね。

加瀬:そういうのも含めて釣れるもの全部美味いからね。あと野菜よね。皆畑作ってるし、自分も作ったんだけど、買うより美味い!

ーーおお!何を作ったんですか?
加瀬:ピーマン・トマト、あとオクラ。紫蘇とかさつまいもも作った。

幕田:加瀬君マメやからな。

加瀬:上手くできるかのドキドキが好き。
好きな食べ物は魚貝と野菜。一番はニンジンが好き、野菜の中では。
採れたてのニンジン美味しいんだよね。
あとね、岩ガキもめちゃめちゃ好き。生なら10個くらいは食べれるし、火を通したら20個くらいはいける。あと海苔とかも。自然からとれるものが美味いよね。あとは俺は釣りをするからね、大体アジなんだけど。

ーーいいですね。私もこの前アジ釣りしました!

※ここからしばらく釣り🎣の話で盛り上がりました
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休みの日の過ごし方

ーーだいぶ盛り上がっちゃいましたが、最後にお休みの日の過ごし方を教えてください。
幕田:俺は基本インドアだからなあ。パソコンいじってるか、料理してるかかな。パソコンは去年1台作ったりも。パソコン自体をいじるのも好きだし、ネットサーフィンもするしみたいな。料理は飯もお菓子も割と何でも。ハンバーガー食べたいと思ってパンから作ったりとか。

ーーすごい!1番の得意料理は何ですか?
幕田:何だろう、最近はパンが好きかな。GWに友達と大きなハンバーガーを作って。パティに1㎏の挽肉、玉ねぎ3個とレタス1玉を使った。その時はうどんも打って流しうどんをして。友達と集まるとそういうことをしてるのが多いかな。

加瀬:俺はゲームするし、時期になれば釣りするし、今年はしてないけど畑いじったり。あ、最近はバレーボールしかしてないわ。声をかけてもらって子供たちに教えたりとかも。この前もBBQして小学生とじゃれたりしてた。休みの時はアウトドアですね。

ーーお休みは基本土日ですか?
幕田:オフシーズンは基本土日休み。オンシーズンは世話のために交代でどっちかが出てるけど、用事があったりしたら臨機応変に代わったりも。土日出たら平日に昼から休めたりもするからね。

加瀬:うん、日を見計らって晩ご飯のアジを釣りに行ったりね。
あと外食を結構するんだよね。でも結構同じお店に行きがちで、行動範囲を広げてきたいなあとは思う。

筆者より

快くインタビューのお願いを引き受けてくださったお二人。お仕事の話からプライベートのことまで、飾らずに和やかにお話してくれました。
文面にするとお二人が行っている業務そのものはシンプルなように見えているかもしれないのですが、実際には丁寧さと素早さを両立させなければならない大変なお仕事だと思います。
今回のインタビューを通じて、食べ物が食卓に並ぶまでは作り手さんの手間と努力がたくさん注がれていることを改めて実感しました。感謝を忘れずにこれからも美味しくいただきたいです。