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「摩天崖の牛に感動してIターン」島の畜産のために奮闘する若者にインタビュー

「Humans of Nishinoshima」
島に住んでいる人って何してるの?島にはどんな仕事があるの?
このマガジンでは西ノ島で暮らす人にインタビューし、
イメージしづらい離島での暮らしについてお届けしています。

今回インタビューしたのは、JAしまねで畜産関係のお仕事に従事されている河路さん。
普段あまり知る機会の少ない業務内容などについてお伺いしました。

プロフィール

ーー今日はよろしくお願いします。まず自己紹介をお願いします!
河路大毅と申します。愛知県出身で、島根大学を経て今年の4月に
隠岐に来ました。

ーーありがとうございます。西ノ島に来たきっかけを教えてください。
隠岐を知ったのは学部生時代です。畜産系の研究室に入っていて
ちょうど僕が入ったタイミングくらいで
「隠岐で研究をやってみよう」という話になりまして。

研究室の教授も島根に来て26年くらいだったんですけど、
初めて隠岐に行くくらいの感じで。
何も分からない状態から、知夫里島で研究を始めて。
放牧主体で育てている畜産に興味を持つようになって、
大学を卒業したら何とかこっちで働けないかなと考えていました。

初めは島留学を経て就農できればなと思っていたんですけど、
JAの部長から「うちで働きませんか」というメールを頂いて。
それなら!と思ってこちらで就職しました。

牛の状態をチェック

ーー勇気のいる決断だったと思うのですが、西ノ島に来ようと思えた
決め手はありましたか?
決め手……印象的だったのは摩天崖からの景色ですかね。
日本にこんな場所があるんだと感動して。
牛に関しても、日本における畜産だとほとんど牛舎内での飼育なんですが、
のびのびと歩いて草を食べている様子が、
いい在り方だなという風に感じて。
日本の畜産でこれ以上に牛が自由な場所は中々ないなと。
せっかくならこういう良い環境で牛が育っている所で
畜産を支えて行きたいなと思いました。

摩天崖の牛

ーー摩天崖を含め、西ノ島は島全体の約半分が放牧地帯ですが、日本にこういう環境は他にあまりないのでしょうか?
中々ないと思います。もちろん放牧場はたくさんありますけど、
ただここは公共牧野って言って、町が管理して島ぐるみで畜産を支えていて。牛の放牧自体は何百年と続いていて。
歴史的にみてもここまで残っているのは中々ないので。
牛自体が観光資源にもなっていると思うのですが、
そういうのもひっくるめて「この島いいなあ」と思っています。

仕事について

ーーいまのお仕事内容を教えてください。
畜産関連の業務をしています。その中でも自分が特に力を入れているのが牛の人工授精です。

人工授精中

農家さんから、雌牛の発情の兆候の知らせを受けたら人工授精の準備をして向かって種付けをする、という流れです。
なので予定が決まるのは結構直前ですね。
土日も連絡があれば向かう体制になっています。

人工授精の他には、農家さんへのエサの配達だったり、
獣医師さんについて検診のお手伝いとかもしています。
移動時間も含め、外に出ていることが多いですね。隙間の時間で、
事務作業なども行っています。

※人工授精についてはこちらの記事(外部サイトです)も見てみてください。

ーー仕事のやりがいは何ですか?
子どもの頃から動物が好きで、小さい頃は
動物園の飼育員になりたいとも思っていたりして。
動物と関わることのできる今の業務そのものがやりがいと言いますか。
高校も普通科で、大学でも牛はいなかったので、
こっちに来てやっと牛に触れて。
牛と関われること自体が嬉しいです。

ーー動物を好きになったきっかけはありますか?
きっかけというか生まれた時からかもしれません。
幼稚園の頃から毎週のように
動物園か水族館には連れていってもらっていましたね。
高校卒業後は大学ではなくてトリマーとかの
専門学校への進学も視野に入れていた時期もありましたし。
多分中学生くらいから、将来については「動物」関係というのはぶれていないと思います。
現実的なことを考えた時に、畜産の道だったという感じですね。

牛ってどうしても経済動物なので、割り切る必要があることではあるんですが、自分としてはずっと繋がれてエサだけ食べて大きくなっていくっていうのがちょっと好きではなくて……もちろん産業として飼養しているので仕方ないんですけども。
そういった面でも隠岐に出会った時の感動は大きかったですね。
牛がこうやってのびのびと生きている環境があるんだ!って。

ーー仕事の大変な部分を教えてください。
人工授精は外から見える技術ではないので、時間をかけて経験して
技術を向上させていかないといけないと考えています。
あとはコミュニケーションがそこまで得意ではないので、
農家さんとの対話にまだ慣れないところもあります。

牛飼いさんたちとお話中

人工授精についてはまだ3か月ですが、なんとか形になってきました。
ただ細かい技術や工夫とかが色々あるので、まだまだ先は長いと思っています。
1回の受精で妊娠できないと、その次の発情まで待たないといけないので。
子どもが生まれるのが遅くなると、その分経費がかさむので。
1回逃しちゃうと後々に響いてくるので、できるだけ1回でしっかりと
成功させたいですね。隠岐は年に3回しか市場がないので、特に1回の受精が重要です。

島での生活

ーー次はお仕事以外の部分をお聞きしたいです。お休みの時は何をされていますか?
結構インドア派なのでゲームをしたり、たまにプールで泳いだりしています。
ロードバイクも乗りたいなとは思いますね。大学生の時には松江から出雲大社までロードバイクで行ったりしていました。
あとは釣りもしたいです。そこからコミュニケーションも生まれるんじゃないかとも思うので。
せっかく来たので色々趣味を増やしていきたいですね。

ーー西ノ島のどんなところが好きですか?
知らない人でも話しかけてくださることですかね。
新参者としては本当に嬉しくて。人の優しさを感じています。
あとはやっぱり牛が好きです。
摩天崖あたりの景色も好きです。島前でいうと知夫の赤壁も!

食べ物関係でいうと地元の方から頂いたサザエも美味しかったし、
ちょくちょく行ってる「小恋路」(おれんじ)の料理も好きです。

ーー島に来てから何か変化はありましたか?
生活習慣が改善されました。車の運転も多いので、日中に眠くならないよう
早寝早起きを心がけています。
最近は早く起きて毒物劇物取扱者試験という国家資格の勉強もしています。
合格率も低いみたいで、この他にJA特有の試験などもあるので、帰宅した後は早めに寝て、疲れをとって翌朝2時間くらい勉強、っていうのが最近の流れですね。

ーー「畜産」への見方に変化はありましたか?
学生時代は牛のエサやエネルギーが専門分野で、データや論文を
扱うことが多かったんです。
なのでこっちに来たばかりの時は大学院まで出た訳だし色々言ってみよう!と意気揚々でした。
ただやっぱり生身の牛相手にはそんな数字通りいかないですし、
そもそも放牧されているから牛を捕まえられないこともありますし(笑)
自分の知識を使うのは今じゃないというか、島の状況を
知ってからじゃないとだめだなと思いました。
自分はまだ口を出せるレベルじゃないなっていうのは島に来て
すぐに分かりましたね。データ通りにはいきません。

ーーこれからの目標を聞かせてください。
1番大きな目標は、人工授精の技術を向上させて、
ちゃんと1回で妊娠させられるようになりたいというところですね。
あとは、まだ先輩につきっきりなので、1人で仕事を覚えて
先輩の負担を減らせるようにしたいです。
先輩からも農家さんからも信頼される存在を目指したいですね。
そして将来的には自分で牛を飼いたいです!

あとがき

西ノ島の大切な産業である「畜産」において
欠かせないものであるにも関わらず、
河路さんのお仕事に同行させていただくまで、
牛の人工授精というもの自体を知りませんでした。

ですが目の前の牛に真摯に向き合い、しっかりと
仕事をこなす河路さんの姿を見て感銘を受けました。

いつの日か、「自分で牛を飼う」という夢も叶え
西ノ島の畜産を支える存在になっている河路さんに会うのが
楽しみです。
取材へのご協力ありがとうございました。

隠岐では年に3回のみ行われる
貴重な「家畜市場」の写真を
ご提供いただきました!


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