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元地域おこし協力隊の二人が、なぜ島に来て窯元を継承したのか。

「Humans of Nishinoshima」
島に住んでいる人って何してるの?島にはどんな仕事があるの?
このマガジンでは西ノ島で暮らす人にインタビューし、
イメージしづらい離島での暮らしについてお届けしています。

聞き手・文 吉谷優花

(左)池田八重子(いけだやえこ)さん/静岡県出身
(右)伴田さつき(はんださつき)さん/東京都出身
2017年に地域おこし協力隊として西ノ島に移住/島生活5年目
未経験で陶芸の世界へ。今年一月に正式に事業を継承

「後継者求む」の文字に惹かれた

ーーまずは、お二人が西ノ島に来られた経緯を教えて下さい。

池田:何か将来の自分に残るような、そんな仕事をしたいと思ったからです。今まで何回か転職をしてきました。東京のデザイン事務所で4年ほど働き、田舎の世界も知りたくなり北海道のペンションで働き、それがきっかけで野菜に興味を持つようになり、最後は東京のオーガニックスーパーの野菜担当として、10年間働きましたね。季節に合わせてイベントをしたり、ディスプレイを変えたり、そうしていると1年なんてあっという間に経っちゃうんですよ。気付いたらあっという間に10年も経っていました。都会で好きなことをしながら、バリバリ働く生活も充実していて幸せだったんですけど、10年経った頃から、体も精神も使って働いているのに自分に何も残ってない気がして。虚しさを感じるようになったんですよね。

もともと物作りが好きで、趣味で色々作ったりしていました。もし自分が好きな物作りを仕事にしたら、どうだろうって思ったんです。陶芸って身体で体得するものだから、同じ10年でも知識や感覚が残るじゃないですか。「伝統工芸募集」「物作り募集」など検索したりして、そこで西ノ島が出てきたんですよね。

伴田:私も元々物作りが好きで、特に鞄が好きで、作ってみようかなと思い、物作りを中心に就職活動をしました。ご縁あって、奈良のランドセルを作る会社で4年程働きました。ただ、分業スタイルだったので、パーツを作る人、縫う人、貼る人など、分かれていて、全ての工程を一人ではできないんですよね。最初の三年間は覚える事に必死で楽しかったのですが、仕事に慣れて来た四年目くらいから、自分の手で全ての工程をやってみたい思いと、素材から、製造、販売まで関わりたいという思いが強くなりました。私も「物作り・転職」なんかで調べたりして、西ノ島の「後継者求む」の文字に惹かれて西ノ島に辿り着きました。

ーーお二人は物作りが好きという共通点があるんですね。焼火窯を継承ということは、西ノ島に移住前提で来たのですか。

池田:そうですね。年齢的にも気持ちの面でも最後の転職にしようと思っていたので、もう西ノ島しかないくらいの気持ちで来ましたね。
伴田:私はそこまで深く考えてはなかったかな・・ただ、物作りがしたい、陶芸楽しそうだなっていう思いだけで来ました。

ーー島に来て、ギャップを感じることはありましたか。

池田:島リズムに慣れることに精一杯でした(笑)。私たち、島に来る前は、都会の忙しい職場で働いていたので、いかに効率良く、成果を出すか、みたいな世界で生きていたので。自分がせっかちっていうのもあるんですけど、最初は島リズムに馴染めず、ついイライラしちゃう時もありましたね(笑)。

池田:あっ、すごい世界に足を踏み入れてしまったなと思いました(笑)。もちろん陶芸の事は無知なので学ぶのですが、陶芸の他にも挨拶の仕方とか、ホウキの使い方とかも教えて頂いて。この年齢になると何かしら自分の軸とかやり方って決まってくるじゃないですか。その軸と、郷に入れば郷に従えの言葉との葛藤の日々でした。

伴田:島の方にお世話になった場合、そのことを師匠にもお伝えするとかね。始めのうちはメモ帳を持ち歩いて、名前をメモしたり似顔絵を描いたりなんかして、外に出るたびに新しいことを吸収していました(笑)。

陶芸の事だけを考えられる三年間

ーー実際、任期の3年間で学ぶ時間は足りるんでしょうか。陶芸の世界って何十年も修行するイメージなのでかなり濃い時間を過ごしたんではないでしょうか。

池田:本当にそうなんですよね。実は時間的に足りないとは最初から言われていました。まず、焼き物の世界は本来なら学校で歴史や化学的な基礎知識を学び、そこから修行というのが一般的です。私たちはそこの基礎がゼロの状態できているので。

週休二日なんですが、そのうち一日は工房で自主練習。もう一日は図書館で陶芸に関する本を読みました。分厚い本を1ヶ月で1冊、2年で24冊です。島って誘惑が少ないから集中して学べる二年間でしたよ。そういう意味では、島の環境はありがたかったですね。まさに陶芸漬けの日々です。

お二人の職場。窓が大きく自然光が気持ちの良い空間

ーー嫌になることはなかったですか。

伴田:もちろん大変なことはあるんですけど、すごく恵まれていると思っていました。陶芸の技術って普通だったらお金を払って教えていただくことで。地域おこし協力隊としてきていたので、お金をいただきながら学べるっていう特殊な環境ですよね。

池田:私も陶芸がやりたくて来ていたし、嫌なことはなかったかな。好きなことをやって、お金もらえるってなかなかないし、普通はお金を払って学ぶものなので、ありがたいと思ってましたね。

ーーお二人の仕事のやりがいを教えて下さい。

伴田:やっぱり自分が作った作品を、「素敵だね。」とか「この形好きだからもっと作って。」って褒めてもらえた時は嬉しいです。もう一つは、隠岐の赤土を利用して土染め体験もしているのですが、土でこんなに綺麗に色が染まることに魅力を感じています。土によって色の出方が違うので、一点一点オリジナルのものが出来上がるんですよ。

隠岐の土を利用して土染めしたストール


池田:仕事とは少し離れてしまうんだけど、職場の環境に幸せを感じます。通勤中、車の窓を開けながら、風を感じながら、鳥の声を聞きながら運転してると、あー気持ちいいなぁって思います。東京にいた時は、満員電車に乗るために並ぶっていう生活をしていましたからね。

ーー島暮らしで好きなところはなんですか。

池田:朝目覚めた瞬間、森林の香りがするところですね。朝、台所に立って、少し窓があいているだけで森林のいい香りがして、つい深呼吸したくなります。子どものころに行ったキャンプを思い出すような、そんな香りで、贅沢だなぁと思いますね。

窓を開けると風と共に森林の香りが漂います

伴田:夜の星空です。真っ暗の中、ぽてぽて歩いていても、立ち止まってぼーっとしてても、誰の邪魔にもならないですからね。

ーー島で過ごす上で”モットー”があれば教えて下さい。

池田:ニコニコすること。ニコニコしてると人も寄ってきてくれるし、島では一人では生きていけないですからね。
伴田:気にしすぎないこと。狭い世界なので噂とか色々ありますが、気にしないことが一番かな、と。
池田:伴田さんの得意技は、見ないことですから(笑)。外で会っても、運転してても、基本目が合わないんですよ(笑)。

ーーかなり真逆ですね(笑)。私はまだ島で知った人に会うと嬉しくて、つい手を振ってしまいます。

モノよりコトを

ーーこれからお二人で、焼火窯としてやっていきたいことはありますか。

池田:伴田:まずは師匠が作ってきた焼火窯を守っていくことですね。

池田:物を買うことよりも体験を重視する人が増えているように思います。
西ノ島は、外国人観光客が比較的多いのですが、その方達ってあえて、タクシーに乗らずに景色を楽しむために歩いたり、旅館に泊まらずキャンプをしたり、島でしか出来ない体験を存分に楽しんでいるんです。
焼火窯にも、バックパック一つで来てくれて言葉も通じないのに体験を楽しんでくれて、人の価値観って変わってきてるなと思います。

伴田:最近、贈答用として、名入れ茶碗をプレゼントしたいというオーダーがありました。あまり馴染みがなかったのですが、その人だけのオリジナル、特別感のあるものも需要があるんですね。そんな情報もキャッチしながら、今あるものを大切にしつつ、新しいものを融合させながらやっていきたいですね。

埼玉から観光で訪れたご家族
実際私も陶芸体験で器を作りました

島でトキメクような空間に


伴田:島で、ものづくりをしている人って意外と多いんです。そんな人たちが集まって、真剣にものづくりに取り組めるような空間を焼火窯を通して作れたら、面白いなと思います。例えば、工房に来たら道具が揃っていて、陶芸や染物ができて。なおかつ、その人たち同士で交流ができたりなんかして。

池田:これはあくまで私の意見ですが、西ノ島って若者世代は、男性に比べ、女性が少ないんですよね。男性は一次産業の漁師という仕事があるので、定住しやすかったり、男性が楽しめるコンテンツ、例えば釣りとかスポーツとかあるじゃないですか。でも女性に置き換えた時に、女性が楽しめるような空間がまだ少ないのかなって。女性って色や香り、見てて可愛いってトキメクような、五感を感じられる場が大切だと思うんです。そういう場を、焼火窯を通して表現できたらないいなと思っています。

筆者のひとこと

お二人のこと、協力隊時代のこと、焼火窯のこと、島のこれから。
まるっと詰め込んでお話しをお聞きしました。「陶芸のことだけを考えられる三年間」という言葉が印象的で、何かをやり遂げたい方、勉強したい方、深めたい方は島の環境は、ぴったりかもしれませんね。
陶芸・土染め体験をしてみたい方、是非焼火窯さんへ遊びに行ってみて下さい。心地のいい空間でお二人がお迎えしてくれますよ。




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